前回のブログで、愛着障害になるかどうかは、『原因となることがいつ起きたか?』による。
というお話をしました。
人間の場合、カギになる時期は生後6か月~1才半ぐらいが、赤ちゃんが愛着を形成する大事な時期でしたね。
【愛着形成は社会化の大前提】
●人間の場合・・・
人間の赤ちゃんは、生後6か月~1才半くらいの乳児期に、母親(養育者)からの無条件の愛を受け取って
◆自分には【安全基地】があるから安心だ。
◆自分には母親(養育者)との強固な絆がある(味方がいる)。
◆自分は確実に愛されている存在だ。
といったことを認識します。
その後、幼児期(向社会期)になると、母親に教わったり、母親を模倣したり、お友達と関わったりし始めます。
その中で、
◆共感すること。
◆思いやりを持つこと。
◆思い通りにならないことに対する葛藤や対処法。
など多くを学び、吸収して、基本的な【社会性】を身に着けていきます。
この時期に【社会性】を身に着けるためには他者との関わりが不可欠ですね。
『ひとり』では『社会』になりませんから~(;'∀')
この、他者との関わりという”大冒険”をするには、自信と勇気が必要なんです。
母親との【愛着形成】がちゃんとできていて、心の【安全基地】を持っているという大前提がなければ、【社会化】という大海原には漕ぎ出せないよ!・・・ってことですね。
●犬の場合・・・
当然のことながら、人間の赤ちゃんの成長過程ほど詳細なことは解明されていません。
◆犬の社会化期
ただ、【社会化期】についてはかなり多くの研究がされていて、おおむね生後4週~13週が犬の【社会化期】だということが判っています。
この時期、子犬は人間の子どもと同じように、
母犬を模倣したり、母犬から教えられたり叱られたり、きょうだい犬とじゃれ合ったりする中で、犬としてのごく基本的なコミュニケーションのお作法(社会性)を身に着けていきます。
そのため、社会性を学ぶべき【社会化期】に、母犬やきょうだい犬たちと早くに引き離されることによって一緒に過ごすことができなかった子犬は、いわゆる『社会性不足』になります。
社会性不足の犬は、他の犬とうまく関われなかったり、ひどく臆病だったりという弱点を抱えていることが多いことは、かなり一般的に知られるようになってきました。
そういう問題を抱えた犬は、問題行動を起こしやすい傾向にあることも判っていて、それが原因で飼い主から飼育放棄されてしまうケースも少なくありません。
現在、たくさんの動物愛護団体や動物愛護家たちが
『少なくとも流通市場に出すために子犬を母犬から引き離すのは生後8週令を過ぎてからにして!!』
と訴え続けているのは、そういった事情があるからですね。
◆犬の愛着形成期はいつ?
犬の『愛着形成期』なーんて言葉はありませんが、便宜上こう表現することにしました。
要するに、社会化の大前提となる時期で、『自分は確かに愛されている。自分には安全基地がある。』と子犬が認識し、【社会化期】に踏み出すための自信と勇気を持つ大事な時期です。
実は、犬については【社会化期】ばかりが重要視され、注目されていました。
ところが最近の研究で徐々に、【社会化期】がはじまる以前・・・つまり生後3週間までの【授乳期】に母犬がどのように子犬に接していたか?が、子犬が成長してからの性格にまで影響を及ぼしているということが判ってきたんです。
◆授乳期における母犬のケアレベルが子犬に与える影響
たとえば、昨年(2016年)に発表されたスウェーデンの研究チームの論文によると・・・
生後3週間までの【授乳期】に母犬からの養育行動(体をくっつける・授乳する・舐める・鼻先で触れる・・・など)をたくさん受けた子犬ほど
・身体的交流(生殖行動を取ろうとする)
・社会的交流(他の犬と挨拶したり遊ぶなどの関りを持とうとする)
・攻撃性(望ましくないことをする他者を威嚇したりする)
のポイントが高くなるという傾向が見出されたといいます。
研究チームは、ラットなどでも確認されている通り、生後間もない時期における母犬の養育行動が子犬の性格に長期的な影響を及ぼすようだとの結論に至りました。
(参考:Levels of maternal care in dogs affect adult offspring temperament)
母犬が熱心に子育てをした子犬ほど、成犬になってから他の犬と積極的に関わろうとする姿勢があって、自己主張もしっかりできているということではないでしょうか。
攻撃性が高いというと、眉をひそめてしまう方も多いでしょうが、この研究チームで判定に使用している基準は、警察犬や軍用犬の採用試験に用いられるものです。
ですから、攻撃すべきシチュエーションで攻撃(威嚇)行動に出られるか?という意味だと解釈してくださいね。
実際・・・人間でも、好ましくない扱いを他者から受けた時に、正当な方法で自己主張や反撃できる人の方が社会性が高くて安全といえます。
逆に、何をされても言い返したり抵抗できないようなおとなしい少年が、ポケットに隠し持っていたナイフを取り出し、何の前触れもなくいきなりグサリッ!・・・という方が、予測不能な分、よほど攻撃性としては恐ろしいですからね。
【社会化期】以前の【授乳期】に母犬(養育者)と子犬がどのように関わったか?ということが、その後の人格(犬格)に大いに影響を与えているという点で、人間が乳児期に愛着形成をするのと共通していると思いませんか?
【ただの社会性のなさ とは違う】
Pet Hotel 11!にやってくるワンちゃんたちの中には、社会性がない、または低いワンちゃんがたーくさんいます。
【社会化期】に母犬やきょうだい犬と十分に触合えなかった子かもしれませんね。
それから、もしかすると飼い主さん以外の人や犬に触れ合う機会が極端に少ない子かもしれません。
でも、そういった社会性のないワンちゃんたちは、他の人や犬と一緒に過ごす場や時間を多く提供してあげることで、後からでも徐々に社会性を身に着けて行くことができます。
ところがKくんは、Pet Hotel 11!で過ごした数日間の中で、確かに他のワンちゃんがいる環境に”慣れ”て”マヒ”したかもしれませんが、自分から関わろうとする姿勢は見られませんでした。
そして、毎日Kくんに咬まれそうになりながらも、ちゃんとお散歩に連れ出している愛情深い飼い主さんと3年も暮らしていながら、いまだに飼い主さんに警戒心があり、100%心を開けていません。
過去に辛い経験をし、心にトラウマを抱えた保護犬でも、愛情を持って接し続けていれば新しい飼い主さんに心を開くようになる例がたくさんあるのにです・・・
ですからわたしは、Kくんの状態は
単なる社会性のなさとは違う
すなわち・・・飼い主さんの責任ではない
と感じました。
(わたしが飼い主さんをよく存じ上げていることも、そう思った一因です)
ですからKくんは、人間でいうところの【愛着障害】かもしれないと考えたのです。
Kくんが、何らかの理由で、
生まれて間もなく母犬から引き離されたり・・・
パピーミルのような劣悪環境で母犬がKくんを生んですぐ死んでしまったり・・・
やはり劣悪環境でストレスに晒された母犬が育児放棄をしたり・・・
などといったことがあったらどうでしょうか?
そのためにKくんが、もしも生まれてからただの1度も【安全基地】を知らずにいるのだとしたら・・・
Kくんには【社会化期】を迎える準備すらできていないのかもしれません。
そんなKくんに、一般的なセオリーを当てはめて、安易に
『Kくんにはとにかく社会性をつけさせてください。そのためにはできるだけ多くの経験をさせ、人や犬と接触させてください。そして、人間社会における社会性を身に着けさせるために、飼い主さん自身がしつけをシッカリしてください。』
というようなことを言ってしまうのは、Kくんにとってあまりに酷で、そもそもKくんには不可能なことを押し付けていることになって・・・それゆえにキケンではないかと感じているのです。
長くなるのでつづきはまた次回にします。
<今日のPet Hotel 11!>
今日もおやつ用に焼き芋を焼くお料理番♪ |
「お芋まだぁ~~?」 って・・・ ”なつ”はどんだけ不安定な狭いところに乗ってるの!? |