前回のブログでは、愛犬が交通事故に遭った場合、原則として「物損事故」として取り扱われること。
ただ最近は「愛犬は家族同然」として慰謝料が認められる判例も増えてきていること。
飼い主さんがノーリードやロングリードなど、愛犬を適切に制御できない状態で起きた事故については、逆に訴えられる可能性もあるというお話をしました。
きょうは、実際の裁判例を挙げながら、
「事故が起きた場合に、飼い主さんの管理者責任がいかに重く考えられているか」
ということについてお話したいと思います。
【ワンちゃんの交通事故判例】
●愛犬2頭をはねたドライバーに訴えられる
ノーリードの飼い犬2頭が信号が赤になった横断歩道を渡っていたところ青信号で直進してきた乗用車に追突され、1頭は死亡、もう1頭は重傷を負いました。
後日、飼い主は乗用車のドライバーから車の修理費用を求める損害賠償請求の訴訟を起こされました。
その結果、裁判所は飼い主が愛犬を繋留していなかったことを重く受け止め、飼育・管理責任による注意義務を怠ったとして8割の過失割合を認めました。
(ドライバーの過失責任は2割)
飼い主は乗用車の修理費用と訴訟費用の8割を支払うよう命じられました。
(2006年 大阪地裁判決)
●停車中に一方的に追突され同乗していた愛犬が重度の障害
後部座席に愛犬を乗せて赤信号で停車していた車が、後ろからきた車に追突された衝撃で別な車に追突してしまう事故がありました。
この事故で後部座席にいた犬は重い後遺障害が残るケガを負ってしまいました。
飼い主夫婦は、犬の治療費・介護器具(犬用車いす)作成費用・慰謝料などを求めて訴訟を起こしました。
この裁判では、赤信号で停車していた被害者の車に突っ込んできた車の過失が明らかに大きいことや、「愛犬は子供のいない夫婦にとって我が子同然だった」という飼い主の精神的苦痛を重く見て、
治療費:111,500円
車いす作成費:25,000円
慰謝料:400,000円(ひとり20万円ずつ)
の支払いを追突したドライバーに命じています。
ただ、本来であれば過失割合が10:0となるところ、飼い主側にも1割の過失があるとしました。
その理由は、愛犬を犬用の固定具(シートベルト)などで固定していなかったということによるものです。
また、追突したドライバーは夫妻の愛犬にケガを負わせたことについて刑法上の罪に問われることはありませんでした。
(2008年 名古屋高裁判決)
●飛び出してきた犬に接触して転倒した親子が飼い主を訴える
夜、公園まで愛犬(黒いトイプードル)を抱っこしてきた飼い主が、愛犬を下ろしてリードをつけようとしていたところ突然愛犬が走り出し、通りかかった自転車に乗っていた母娘が転倒してケガを負い、飼い主を訴える裁判を起こしました。
原告は8歳の娘を自転車の幼児用座席に乗せて走行中、突然走ってきた犬が前輪に接触して転倒し路上に投げ出されたことで左足を骨折、娘も左足に打撲傷を負ったと主張しました。
飼い主側は、愛犬が無傷であることから接触はしていないはずだと主張。
また、夜道にもかかわらず自転車が無灯火(ライトをつけていなかった)ことや、8歳の娘を乗せていたのは道路交通規則に違反しているという点を指摘して全面的に争いました。
(二人乗りが認められるのは6歳未満の幼児に限られています)
ライトを点けて、なおかつ不適切な二人乗りをしていなければ、走ってきた犬をハンドル操作によって安全に避けることが可能だったというのが飼い主側の言い分です。
けれども、裁判所はこの事故を
「確定的な認定判断は困難であるが、自転車とリードをつけない犬との出合い頭による転倒事故だ」
として、接触していないという飼い主側の言い分を退けました。
更に、
「賠償責任が最終的に認められる可能性は、相当高いように思われる」
と断じました。
その結果、本件はトイプードルの飼い主が母娘に和解金300万円を支払うことで決着しました。
(2016年 大阪地裁)
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裁判所が飼い主の愛犬に対する管理義務をかなり重く見ていることがお解りいただけたでしょうか?
「ウチの子は絶対に平気よ!」
とノーリードで歩かせていると、最悪の場合 交通事故で愛犬を失った上に損害賠償を請求されるようなことにもなりかねないということですね。
たいせつなワンちゃんを守るために、万一の時に取り返しのつかない後悔をしなくて済むように
・おうちのドアを開ける前に必ずリードをつけること。
・屋外では抱っこしたりカートに乗せる時も必ずリードを外さないこと。
・車に乗せる時にはシートベルトで固定したケージに入れるなどの事故防止策を講じること。
こういったことを徹底したいですね。
参考までに、交通事故以外のワンちゃん関連の判例を簡単にご紹介しておきましょう。
わが身におきかえるとゾゾーっとするものばかりです。
【ワンちゃんのその他の事故判例】
●犬に驚いて道路に飛び出してトラックにひかれた女の子
文具店に立ち寄った10歳の女の子が、繋がれていない文具店の犬に吠えられて驚き、道路に飛び出したところトラックにひかれ、頭部挫創、頭蓋骨骨折、頭蓋内出血等の障害と顔面に著しい傷を負い、視力低下等の後遺症(後遺障害等級7級)により、労働能力を56%喪失してしまった。
裁判所はトラックのドライバーと犬の飼い主の過失割合を5:5として、賠償額1653万円を半額ずつ負担させる命令を下した。
(昭和57年 大阪地裁)
※現在の賃金センサスによる算定だと5000万円は下らない金額になるそうです
●大型犬に驚いた愛犬に引っ張られ転倒
女性がお散歩中の愛犬(中型犬)が、車道をはさんだ反対側の歩道を歩く子供たちが連れていたグレートデーン(60kg)と吠え合いになり、首輪が抜けたグレートデーンが女性の方に向かって走ってきたところ、逃げようとして走り出した愛犬に引っ張られて転倒し重傷を負った。
グレートデーンの飼い主側は最初に吠えてきたのは女性の犬だと主張したが、首輪がはずれたグレートデーン側の飼い主が174万円の支払いを命じられた。
(2003年 大阪地判)
●犬に飛びつかれ転倒して骨折
2頭の犬を連れて公園を散歩中、1頭が急に走り出しリードが手から離れてしまった。
犬は公園内を散歩中の63歳の女性に飛びつくような恰好をしたため、驚いた女性が転倒し、第12胸椎圧迫骨折。入院47日間、通院58日間の大怪我を負った。
被害者の大けがを見て驚いた飼主は、裁判で、犬は女性に接触していないとか、女性が虚偽の被害額を申告しているなどと、自己の責任を否定する態度に出た。
裁判官は、リードを離した飼主の過失行為と女性の傷害の間に因果関係が認められるとして、飼主に慰謝料など約154万円の損害賠償を命じた。
※被害者女性は骨粗しょう症で骨折しやすい体質であったことが考慮され2割減額された後の金額。
(2006年 甲府地判)
●繋がれた犬に驚いてバイクで転倒
バイクで走行中の男性が、民家の勝手口から鎖に繋がれた犬が飛び出してきたことに驚いて転倒して負傷、バイクも損傷した。
鎖は短く、道路まで届かない長さであったものの、突然犬が道路に飛び出して来たら驚いてバランスを崩しても仕方ないとして、転倒の原因を犬の飛び出しとし、治療費とバイク修理代の46万円を支払うよう飼い主に求めた。
(2007年 東京地判)
●大型犬と衝突して転倒し重傷
早朝の公園で、愛犬2頭をノーリードで遊ばせていた男性が投げたボールを追って走った大型犬(ゴールデンレトリーバー)が、近くを散歩中の中国人女性(45歳)に衝突。
女性は投げ飛ばされて顔面骨折の重傷を負い3か月入院、退院後も固形物を食べられないほどの後遺症が残った(後遺障害等級10級)。
女性は後遺障害により将来21年間にわたって労働能力の27%を喪失したとして、裁判所は女性の損害を2,139万円と認定した。
飼主は犬の賠償保険に加入していなかったので、損害賠償金が莫大になるにつれ、本当は自分の犬はこの女性にぶつかっていないなどと主張し始めたが、目撃証拠から飼主が賠償責任を負うと判決が下された。
(2002年 東京地判)
●犬に恐怖を感じて転倒
公園で犬を散歩中の54才の女性が、ノーリードのラブラドールレトリーバーが近づいてきて唸ったことに恐怖を感じ、離れようと愛犬のリードを引いたところバランスを崩して転倒し、右太腿骨を折る大けがを負った。
女性はラブラドールレトリーバーの飼い主に3,300万円の損害賠償請求した。
裁判所は、ラブラドールレトリーバーは唸る以上のことはしていない点や、被害女性がリードの操作を誤った過失を考慮しながらも、飼い主の管理義務と注意義務を重く判断し、ラブラドールレトリーバーの飼い主におよそ870万円の支払を命じた。
(2002年 大阪地判)
●犬に怯えて転倒し骨折~入院先で死亡
玄関から飼主と一緒に出てきたミニチュアダックスが走って近づいてきたため、それに怯えた79才女性が転倒して骨折、入院したが、入院先の病院で肺炎を起こして死亡してしまった。
ミニチュアダックスは伸縮リードでつながれていた。
判決では、飼い主が伸縮リードを伸び縮みしないよう固定する注意を怠ったとした。
また、骨折によるストレスで抵抗力が弱まり肺炎になった可能性が否定できないとしてミミチュアダックスの飼い主に657万円の支払いを命じた。
(2003年 大阪地判)
●大型犬に「ワン」と吠えられ驚いて転倒
男性がリードをつけてラブラドールレトリーバーを散歩させていたところ、杖をついて路肩の支柱につかまりながら立っている女性に「ワン」と吠え、驚いた女性が転倒して大腿骨骨折、7か月の通院治療を余儀なくされた。
飼い主側は、通常犬は吠えるもので自分には過失はなく、通常犬が1回吠えたくらいで転ぶはずがないと主張。
転倒した女性は先天的股関節脱臼により、身体障害者等級表4級の人だったため、女性側の過失を指摘した。
しかし裁判官は
「犬が女性に向かって吠えることは一種の有形力の行使にあたる。飼主には犬がみだりに吠えないように調教する注意義務がある。」
と、犬の吠え声と女性の転倒との因果関係を認め、飼主に460万円の支払いを命じた。
飼主側は、身体障害者であること自体が過失であり、損害賠償額が過大であると主張したが、裁判官は
「女性の過失を肯定することは、身体障害者に外出を禁じることになる」
としてこれを退けた。
(2001年 横浜地判)
●飛び出してきた犬に驚いてランナーが転倒
飼い犬のダックスをお散歩中、和犬に驚いたダックスが急に走り出し、飼い主さんがリードを離してしまった。
付近をランニング中の男性が、突然飛び出してきたダックスに驚いて転倒、手首に後遺症がのこる骨折を負った。
裁判所は「飼い主の係留(犬をつないでおく)義務を怠った」として飼い主に1280万円の損害賠償命令を下した。
(2018年 大阪地裁)
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はぁ~・・・こわいこわい!! (・_・;)
こういう判決文を読んだ後で、公園や道路で愛犬をノーリードにする勇気のある飼い主さんはいらっしゃるんだろーか・・・(-_-;)
長くなりました。
次回は、「犬=所有物」という法律を変えた方がいいんじゃないの?というご意見について、個人的な見解をお話したいと思います。
<今日のPet Hotel 11!>
風は強いけど・・・ |
いいお天気♪ |
サイコーの季節だね~! みんな、そう思わない? |
ん~~~? |
ん~~~? |
ん~~~?(虫探し中) |
ちょっとちょっとー! 誰か、ボクと遊んでよーう! ハイハイ、人間がお相手しましょう(-_-;) |