【Hちゃんの芽胞菌(がほうきん)】
●緊急要請
今朝、8時半過ぎに電話のベルが鳴りました。
この時間に予約の電話が入ることはあまりないので、
「お預かりしているワンちゃんの飼い主さんかな?」
と思い受話器を取ると・・・ブビー!そうではありませんでした。
電話の主は常連Hちゃんのお父さん(飼い主さん)
「Hがずっと下痢をしているので病院に連れて行ってもらえないだろうか?」
というご依頼でした。
Hちゃんのお父さんはご高齢で車の運転をされないため、普段から動物病院やトリミングなど、車が必要な時は気軽に声をかけてみてくださいねと言ってあるんです。
●Hちゃんの症状
ご自宅を訪れると、Hちゃんは思ったよりも元気そうで一安心しました。
お父さんはHちゃんの症状をメモに書き残しておいででした。
それに基づいて説明していただいたところによると、Hちゃんの症状は次のようなものでした。
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・1週間ほど前からウンチが少し緩めだった。
・食欲もあまりないが、普段から食欲にムラがあるのであまり気にしなかった。
・ウンチはずっと緩かったが、3日ほど前からひどい下痢になった。
・昼間は普通に過ごしているが、夜何度もお父さんを起こして下痢をするので寝不足になってしまっている。
・下痢は最後の方になると透明なゼリーのような感じ。
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昨夜のHちゃんのウンチをビニール袋に入れてもらって、Hちゃんを連れてさっそく動物病院へ向かいました。
●診断
Hちゃんは11才のチワズー(チワワ×シーズーMIX)のおばあちゃんです。
症状をきいてHちゃんのウンチを検査した獣医さんの診断は次のようなものでした。
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・病名は大腸炎(大腸が炎症を起こしている)。
・下痢はHちゃんのウンチ中に見つかった大量の芽胞菌、コイツの仕業。
・芽胞菌をやっつけるお薬を処方するので、必ず全部飲み切ること。
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●芽胞菌って?
Hちゃんの腸内にはびこっているという芽胞菌とはどういうものなのでしょう?
芽胞菌っていうのは、菌の固有名詞ではありません。
一部の細菌がもつ、極めて耐久性の高い細胞構造の名前なんです。
ですから、芽胞菌に分類される細菌はいくつもあるのですが、ワンちゃんの腸炎をよく引き起こす芽胞菌はクロストリジウム属の細菌です。
芽胞菌の特徴は、なんといってもそのしぶとさ!
芽胞と呼ばれるカプセルのようなものを持っていて、それが菌体を保護しています。
普通、細菌は自分が置かれた環境が生きていくのに適していなければ死滅します。
ところが芽胞菌は、そんな環境に置かれると芽胞(カプセル)に閉じこもって休眠状態になり、静かにジっと最適な環境になるのを待っていることができるんです。
そして、自己増殖が可能な環境条件になると再び活動を活発に開始するワケです。
芽胞菌で一番ポピュラーな菌は破傷風菌です。
破傷風菌もクロストリジウム属の芽胞菌ですが、アイツら・・・土の中でなんと数十年もの間、休眠していることができるんですってよーー!
しぶと~~~~い!!
●クロストリジウム属の菌
クロストリジウム属の菌にもいろいろあるのですが、ここでは面倒なので”クロストリジウム菌”って呼ばせていただきます。
ワンちゃんの下痢を引き起こす芽胞細菌=クロストリジウム菌は、実は大抵のワンちゃんの腸内に普段からいる悪玉菌です。
どんな国にも犯罪者はいるけれど、犯罪者が比較的少ない国は治安が良く、犯罪者がすんごく多い国は荒廃して治安が悪い物騒な国ってことになりますよね?
それと同じで、ワンちゃんの腸内環境が健全な時は悪玉菌のクロストリジウム菌がちょっとくらいその中にいたってあまり問題は起こりません。
けれども、何らかのきっかけでクロストリジウム菌たちが勢力を拡大してしまうことで腸内環境が荒廃し、ワンちゃんはたちまち下痢になってしまうんです。
具体的には、クロストリジウム菌が出すエンテロトキシンという毒素によって腸管を守っている粘膜が破壊されてしまいます。
そのため、下痢に続いてネバネバしたジェル状のものが出てくることが多いです。
このネバネバジェル状物体こそ、腸管の粘膜なんです。
はがれて出てきちゃった~~!ってことです。
そのまま放置しておくと、腸管を保護する粘膜がはがれて傷つきやすくなった腸管から出血するようになり、血便出たーー!ってことになっちゃいます。
ですから、下痢が何日も続いたり、ジェル状のものが出てきたりしたら、すぐにウンチを持って(←アナタのではなくワンちゃんのね)動物病院に行ってくださいねー!
芽胞菌は、お話したようにしぶとい細菌なので、シロウト判断でビオフェルミンなんかを飲ませていても絶対に退治することはできましぇん!(ボクは死にましぇん!!)
けれども、獣医さんで処方してくださる適切なお薬を飲めばおよそ1週間くらいで退治できるそうですヨ!
●原因はさまざま
ワンちゃんの下痢を引き起こす原因は、細菌以外にも
ウイルス、寄生虫、その他の病気、冷え、ストレス・・・などなど
たくさんあります。
クロストリジウム菌が腸内で異常繁殖してしまうのも、季節の変わり目に体調を崩して免疫力が低下している・・・などといったちょっとしたことが原因で起こり得るそうです。
特に老犬や子犬など抵抗力の低いワンちゃんは、簡単に体調を崩してしまう上、短期間で重篤化しやすいので注意が必要です。
●そのウンチ凶暴につき・・・
ワンちゃんがお腹を壊す要因の中でも、飼い主さんが一番気をつけなくてはならないのが拾い食い・・・それも他のワンちゃんやネコちゃんの放置ウンチです。
よくお散歩している時に、草についたウンチや放置ウンチを愛犬がクンクンしてペロッ♪(ギャアアア!)っとしちゃうって飼い主さんは、お散歩中絶対に目を離さないようにして、その行為をさせないよう気を付けてください。
ワンちゃんの口の中には鋤鼻器(じょびき)という匂いを感じる部位があります。
体臭や排泄物臭の一部は鋤鼻器を通して、フェロモンとして犬猫の行動や生理に直接的に作用します。
ですから排泄物をついつい舐めてしまう習性があるんですね~!
クロストリジウム菌は、嫌気性といって酸素に触れていると増殖できません。
ところが先ほどもお話したように放置されたウンチの中でもジっとカプセルに閉じこもって休眠しながら生きています
クロストリジウム菌による腸炎を起こしているワンちゃんのウンチを舐めたワンちゃんの体内に入った途端に休眠していた細菌が活動を再開し、ワンちゃんを感染させてしまう可能性が高いんです!
また、ワンちゃん(やネコちゃん)を多頭飼育している飼い主さんも、誰か1匹がお腹を壊している時は、その子のウンチを他の子がウッカリ舐めたりしないように、できれば別のお部屋に隔離した方がいいですね。
更に、ワンちゃんの下痢ウンチを片付ける飼い主さんも注意してください。
飼い主さんの手に付着したクロストリジウム菌を他の所に付着させないよう、しっかりと石鹸で洗い流すようにしましょう。
クロストリジウム菌は通常の消毒で死滅させることは不可能なので、洗い流してしまうのが一番の方法だそうですよ!
アルコール除菌ウェットティッシュでフキフキしてもダメなんですって~(-_-;)
それにしても・・・芽胞菌、恐るべし!!
Hちゃん、早く元気になってね~~!
<今日のPet Hotel 11!>
パールくん、とってもおりこうにしてまーす! 「ママ!ボク朝のおさんぽでいいウンチ出たよ! 安心してね~♪」 |
パールくんとボーくんはとっても仲良し。 よくこうやってじゃれ合ってるの(^▽^) |
一番小さいのに一番迫力のある”なつ”に ボーくんはたじたじ(^-^; |
ボーくん「このボールすっごく気に入った!」 |
ボス「あのぅ・・・それボクのなんだけど・・・」 がんばれボス~(笑) |
いつもはチャコに枕にされているボスが チャコに乗っかる珍しい光景(笑) チャコもなすがままって・・・仲いいねぇ~ |
なつ「なにやってんの?」(呆) |