2018年3月28日水曜日

犬を「擬人化」しすぎないで!⑤

こんにちは。神奈川県 Pet Hotel 11!(ペットホテルワンワン)のお庭番です。




前回のブログに引き続き、犬の「擬人化」についてお話していきます。



【分別のある「擬人化」】



●擬人化のしすぎは危険だけど・・・


今回、わたしはあえて犬を「擬人化」しすぎることに警鐘を鳴らしてきました。

それは、ワンちゃんが正しく理解されないことで起きる不幸を少しでも減らしたいという思いからです。

しつこいようですが、「擬人化する」ということは「動物の生態を正しく知ろうとせずに人間の感覚で判断してしまうこと」です。

本来の生態を正しく知ってもらえず、飼い主さんから誤った解釈をされることは、ワンちゃんの幸せにはつながりません。

逆に、飼い主さんが愛犬の生態を正しく理解していることで生じるリスクはありません。

「擬人化」という色眼鏡によって、先入観で愛犬を判断するのではなく、本来の姿をぜひ知ってあげていただきたいと、切に願っています。


けれども、「擬人化」にも実は良い側面があります。

今日は、そんなお話をしたいと思います。



●動物の「擬人化」に対する学問的見地の変遷


酪農大学の山田弘司教授は、「行動生態学と擬人化」という論文の中で、次のように述べられています。

----------------
擬人化に対する批判にはもっともな理由がある。

ひとつは、情報の信頼性の問題である。

逸話や末組織な観察による情報では、サンプリングの偏りの問題、データの再現性といったデータの信頼性に問題がある。

もうひとつは、推論の飛躍の問題である。

理論的根拠が不十分なまま見かけ上の類似性から行動原理をあてはめるのは、推論として大胆すぎると思われる。

推論を検証可能な仮説の形式で示さない限り、推論の可否を決定することはできないだろう。

いずれにおいても、問題は主張をした当人以外からの検証の可能性が閉ざされていて、客観的な評価ができないことである。

このような問題に対する反省が実験動物の心理学研究にどのような影響を与えたのだろうか。

___ 中略 ___


擬人化への反省により、実験動物心理学の研究は、厳密で洗練されたものになったかわりに、限定された、視野の狭いものになった。
----------------


また、山田弘司教授は別の論文「人と動物の間の社会的感情としての擬人化」の中で、次のように述べられています。

----------------
動物心理学の研究では、動物の擬人化はいましめられてきた。

2008年に発行された動物心理学の入門用教科書(Pearce,2008)では、モルガンの公準(Morgan'scanon)に関わる話題を数ページを割いて説明し、過剰な心理的プロセスを用いた説明をしないようにと主張している。

この主張は、行動の説明にあたっては証明されていない用語や概念の使用は慎重にするべきだということであり、無用な擬人化もそれにあてはまる。

これは過去から今まで、いつでも通用する一般性のある主張である。

それに対して、擬人化を擁護する議論もあったが、それは擬人化を全面的に肯定するのではなく、プラスの面も認めよう、すなわち慎重さの程度に関する議論である。
----------------


山田教授が何をおっしゃっているかというと・・・

過去において、動物行動学(生態学)や動物心理学で、かたよった「擬人化」による研究結果が散見された時期があったんですね。

実験者が動物を「擬人化」し、「こうであってほしい」と望むような結果を知らず知らずのうちに導き出しているようなものがあったわけです。


そんなんじゃあ正しい動物の生態はわからないよね!


っていう反省に基づいて、今度は


「擬人化」は絶対だめ!!


という戒め(いましめ)が、この分野の研究者や動物のトレーナーの教科書などに載り、それが常識となっていきました。


最近になって、それがまた少しづつ変わってきて、


動物生態学や動物心理学の研究において、客観的で正しい結果を導き出すためには、もちろん「擬人化」をしてはならないけれど、まったく「擬人化」を用いないというのもまた、ハートの通っていないものになっちゃうよね~・・・みたいなことが論じられるようになってきたってことです。



●「擬人化」による先入観は真実を見る目を曇らせる


犬の表情を表す時に、学術的には「笑顔」とか「困った顔」とか「つまらなそうな顔」などという「擬人化」の表現をあえて使いません。

なぜなら、ただでさえ「擬人化」によって先入観を持ちやすいわたしたち人間が、人間の表情に犬の表情を当てはめ、重ね合わせてしまうことで、誤った解釈をしてしまう恐れがあるからです。


たとえば、多くの飼い主さんが


「ウチの子、いたずらをした後で罪悪感を感じてるの。ごめんなさいって顔をするのよ~!」


と言っているのに対し、動物行動学者のアレクサンドラ・ホロウィッツは客観的な実験結果から


「犬は罪悪感を感じているのではない。犬はただ、機嫌の悪い飼い主さんに恐怖を感じているだけだ。」


と実証しました。

(参考サイト:That 'guilty' look that your dog is giving you isn't actually guilt — it's fear


多くの飼い主さんは「自分の愛犬は違う」とこの結果を受け入れたがらないそうですが・・・(笑)



●「擬人化」のプラス面


先日、このブログの「犬の可愛いこブリっ子顔?!」という記事の中で、ワンちゃんが見せる「悲しそうな子犬のような表情」についてのお話をしました。

この表情には学術的にちゃーんとした名前がついていて「AU101」っていいます。

もちろん、「擬人化」による誤った先入観を排除するためですね。


でも・・・(-_-;) いかがですか?


「見てみて~、あの子、AU101の顔をしているわぁ~~♪かーわいい~!」


って・・・実感も愛着もわきませんよね?

そこはやっぱり、


「あ、出た!必殺おねだり顔だーーー!!」


とかなんとか言った方が人に伝わりやすいし、ワンちゃんに対する親しみや愛情も増すってもんです。



「刷り込み」の発見で有名なドイツのコンラート・ローレンツ博士は、動物を擬人化しすぎて冷静な観察眼を失うことを動物への冒涜だと言っています。

博士は「擬人化」による思い込みのナンセンスを、次のような事例を交えて著書「ソロモンの指環」に書いています。


「キツネはずるいと言うけれど、決して他の肉食獣以上にずるくはない」

「ハトはまるきり優しくない」


その一方で、ローレンツ博士は動物たちの生態を、本書の中でまるで人間について語るように生き生きとわたしたちに語りかけてくれています。

たとえば、コクマルガラスのカップルについて書かれた部分では、次のような大変「擬人化」された美しい表現法を使っておられます。


----------------
二人はたがいに相手を誇りあっているようだ。

肩を並べて重々しく歩き、頭の毛をうんと逆立てているので、黒いビロードの帽子と明るい灰色の絹のようなうなじが、ますます美しく、いきいきとみえる。
----------------


このような「擬人化」は、動物への興味や親しみを私たち人間に喚起してくれると同時に、動物愛護の精神の発展にもつながる、大変よいやり方だと思います。


読んだ子供が


「将来は、動物生態学者になりたいなぁ~!!」


なんて思うこともあるかもしれませんね♪


わたし自身、毎回このブログの末尾<今日のPet Hotel 11!>では、犬たちを「擬人化」したキャプションをつけて面白おかしくしています。

お読みいただいている方や、大切なワンちゃんをお預けくださっている飼い主さんたちに、サイコーに可愛らしいワンちゃんの姿をお届けしたいという思いからです。



それから・・・


「犬に話しかけるのはナンセンスな擬人化だ」


という人もいますが、それはまったく違います。

研究によって、犬は200~250の単語を、特別に訓練したボーダーコリーなどは1000もの単語を覚えることができるということが判明しています。

ですから、ワンちゃんにたくさんたくさん話しかけることには、ちゃーんと意味があるんですヨ!



さて、次の動画は以前にもわたしのブログでご紹介したものですが、究極の「擬人化」を用いることによって、多くの人の心に大切なことを訴えかける、すばらしい作品です。
ぜひご覧ください。







わたしたちは、人間に一途な愛を注いでくれる「犬という親友」のために、彼らの生態についての正しい知識を学び、彼らのために何ができるかを考え続ける努力を怠ってはなりません。

その結果、誤った先入観に満ちた「望ましくない擬人化」と、「分別のある有益な擬人化」を正しく使い分けることができ、よりよいワンちゃんとの関係を築くことができるのだと思っています。



最後に、今回のテーマについては、わたしの伝える技術の未熟さ故に、内容を正しく認識できない方がいらっしゃるようでした。

そこで、動物 とりわけ犬を「擬人化しすぎちゃダメよ!」ということが、もっとわかりやすく書かれた書籍を何冊かご紹介しておきたいと思います。

動物学者やドッグトレーナーによって書かれた本ですので、より信ぴょう性があるかと思います( ´∀` )


機会とご興味があればぜひお読みください。
















<今日のPet Hotel 11!>

朝の海岸さんぽ
「今日も快便♪」

だけど・・・ワンパクトリオのNちゃんとMくんが
帰っちゃって、ちょっぴりさみし気なHくん

なんつって~~~~♪

”なつ”・・・汚れるからやめなさーーい!

チャコ・・・ヘンなことばっかりマネしないで~
( ノД`)

Hくんが一晩かけて創作したオブジェ???(笑)

ウリだよん
Hくんのことがちょっぴり怖くて、まるで借りてきた犬(笑)
あ、ある意味借りてきた犬でいいんだ(;^_^A

小春日和にはいつもお庭に犬が転がっています。
行き倒れみたい・・・(-_-;)

「モカなの。また来たの」
うんうん、よく来たね~♪
でも、そこは・・・

Nちゃんのお部屋なんだよ~(;'∀')
「Nちゃんもまた来たの♪」
はーい!またいっぱい遊ぼうね~(^▽^)